昔、八重山の黒島に一人の娘がいました。不思議なことにその娘には乳が四つありました。親も娘もとても恥しいと思ってずっとかくしていたのですが、年頃になるととても美しい娘に育ったので、いろいろな人が嫁に欲しいと娘のところに来るようになりました。
娘はその度に、正直に自分のからだのことを話したので、みんなはおどろいて帰っていきました。それでも、そんな娘をどうしても嫁にしたいという男があらわれて、二人は結婚し、とてもむつまじく暮らしました。そして次々と二人の男の子もできました。
ところが、娘のうわさが那覇の王様のところにまで届き、王様の命令で召し出されることになってしまいました。
その頃は、沖縄の本島まで行ってしまえば、帰って来ることがとてもできないほどに遠いものでした。娘は那覇に行ってしまえば、もう帰って来れないということを子どもたちに話し、「若し、どうしてもお母さんに会いたい時には、春の田植の頃と、夏の稲刈りの頃に、南の空を見て欲しい。そしてそこにある大きく輝く星をみつけて欲しい。それが私の星だから。きっときっと毎年、そこに帰って来るから」と約束をして那覇に出かけて行きました。そして、そのまま島には帰ってきませんでした。
それでも、子どもたちとの約束はちゃんと守り、毎年、田植の頃と稲刈りの頃には南の空に帰って来ました。
島の人々は、春、その星が見えると田植をはじめました。夏、その星が見える頃には稲が実って刈入れをしました。
その星は島の人たちから、ハイカ星とかアブー(母親)の星と呼ばれて、野良仕事のたいせつな目当てとなっています。