画家 大浜 用光

―今回、個展を開催するにあたって、石垣に帰ってこられたのは何年ぶりですか?

大浜
10数年ぶりですね。

―ふるさと石垣での初の個展を終えてみていかがでしたか。

大浜
石垣に帰ってきての一番の印象は、まず、何といっても「久しぶりに島の言葉で話ができた」ということでした。それと、体に感じる島の風の匂いみたいなものがあって。この2つで「ああ、本当に八重山に帰ってきたんだなぁ」と実感しました。

―ご覧になった皆さんの反応はどのようなものでしたか。

大浜
分かるとか分からないとか、難しいという人もいました。けど、「八重山でこんな絵画展は初めてではないか」という声がありましたよ。それに子どもたちが喜んで触っていたので、嬉しくて「どんどん触りなさい」と声をかけました。親に手を引かれて来ていた子どもが、「お母さん、早く帰ろう。早く帰って自分でも作ってみたい」と言ってくれたんです。大人は私の絵を難しくみるけれど、子どもはその世界にスッと入り込んできてくれる、それが嬉しかったですね。『ロープ』という作品を観て、「難しい」という人に、僕は「ロープは誰でも分かるでしょう」と言うんです。例えばロープなら、ロープというものを通して、それをみた人それぞれが過去の体験などを思い起こすきっかけにしてほしいですね。既成概念で観るのではなく。そこから何かを感じてほしいなと思います。

―今回のタイトルが『海嘯シリーズ』というように、海がテーマになった作品が主でしたね。

大浜
はい。今回の作品は、昨年、福岡県立美術館での展示会に出品したものなんですが、福岡から帰ってきて、どうして海がテーマなのかと考えたら、思い当たったんです。これはどこの海を描いた、という特定の場所ではないんですよね。たとえばエーゲ海かも知れないし、南方の海や黒海かも知れない。だけどその基本になっているのは、僕にとっての海の原風景とは、やっぱり八重山だな、と。小さいころに感じた原点なんです。それで、八重山の海や風や空気やその中でみたら、この絵がどう見えるかなという風に思いました。これが、今回の展示会の動機でもあったんです。

―それで、八重山の空気の中で観るご自分の作品はどのように映りましたか?

大浜
そうですね。南の方角のリーフを、八重山の方言で「ンマヌファーピー」というんですが、昨日石垣島をドライブしていると、台風が近いせいか、海鳴りが聞こえてきて、沖のンマヌファ・ピーに白波が立っていたんです。その風景をみて、「これは、僕の絵の真似しているのかな」と(笑)。冗談ですけど、僕が描いていた、まさにそんな風景を実際に目の当たりにすることができました。でもね、海だけじゃなく、後ろを振り返ると於茂登岳も見えて。山があって川があってそして海があって。そんなすべてのつながりの中の海なんですよね。それこそが八重山なんだと思うと、すごく嬉しかった。今回八重山での個展は、僕にとって大きな収穫だったし、やってみて正解でした。

(情報やいま1999年12月号より)
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