立松 和平

八重山にしかないものをもっと噛みしめてほしい・・・
今回は2002年3月15日の「いしがき市民大学」で講演をした立松和平さんに話を聞きました。講演では故郷・栃木県のこと、北海道など旅で訪れた場所でのエピソードなどを話していました。
 

―今回の講演を終えての感想を教えてください。

立松和平
みんなさん人の話をちゃんと聞こうというような、基本的な欲求のようなものを感じましたね。だから話していてすごく気持ちがよかったし、あと逆に緊張しましたね、いい加減な話はできないという…、聞く人の誠実さというものを感じたな。実行委員の方に最初、大分の日田市の「自由の森大学」を紹介したのは僕なんです。ここまで、みなさんよく頑張ったんだなと思います。若いメンバーが表に出てやっているけど、あまり若くないメンバーがちゃんと支えているでしょ。世代の連携があるということはとてもいいことなんです。

―立松さんは何度も八重山を訪れていますが、八重山の印象はどういうものですか。

立松和平
奥が深いということです。与那国で「沖縄には与那国と粟国と2つの国がある」と冗談話を聞いたんですが、国が成立する条件は何かと考えると、島建ての神話があること、固有の言語あること、固有の文化があること、その三拍子がそろっているのが八重山だと思うんです。そういうことが奥深さにつながっている。僕みたいなナイチャーからするとそれが魅力で、復帰前から八重山にきています。例えば八重山の織物の図柄にある、星や風や水などのいろいろな模様に意味があるんですね。与那国のオジーたちが、お姉さんが蚕を育てて作ってくれた着物を大事に持っているんですよ。織物一つをとっても肉親に対する深い愛情があって、人が長い時間かけて築いてきた文化だなと端々で感じるんです。音楽や工芸品そして行事などは特にですね。

―八重山は自然がまだまだ残っていますが、自然破壊が進む現状もあります。

立松和平
そのことは八重山だけじゃないですが、どうして内地に合わせた、新潟平野でやるような土地改良をやるのかなと正直思いました。もっと大切なささやかな自然があると思うんです。例えば浜辺と畑の間にアダンの木があって、赤土流出を防いでいるわけでしょう。ブルトーザーであっという間に壊れてしまうような自然、昔の人が大切にしていた自然を大切にしていった方がいい。自然とは何一つ無駄がないと思っているんです。人間がその意味を知らないだけで、自然のメカニズムそれはささやかなものなんです。昔の人が大切にしたものは、今も大切にしないといけない。八重山だけのことじゃないけど、八重山でも壊れてしまったものはありますね。

―これからどのような活動をしていく予定ですか。

立松和平
沖縄に関してはこれという具体的な予定はありませんが、ゆっくりと島々をまわってみたいです。昔はくると1週間ほどいるのが当たり前ですが、今は1日2日で帰ってしまうのでとてももったいない。与那国のオジーにも会いにいかないといけないし。もっとゆっくり八重山を訪ねたいですね。

―八重山の人たちにメッセージをお願いします。

立松和平
八重山は素晴らしいところがいっぱいあります。文化に特徴があって独特の世界を創っているわけです。八重山にしかないものをもっと噛みしめてほしい。自分たちの良さを噛みしめるということは大切なことだと思いますね。八重山は日本の中でも大切なところだと思いますよ。僕みたいな北関東に生まれ育った人間が、30年以上通い続けても飽きない場所ですからね。
 

立松和平(たてまつ わへい)プロフィール

作家。1947年12月15日、栃木県宇都宮市で出生。早稲田大学政経学部卒業。1970年、在学中に文学作品「自転車」で第1回早稲田文学新人賞を受賞。卒業後、土木作業員、運転手、魚市場の荷役などの職業を経験したあと、故郷に戻って宇都宮市役所に勤務。1979年から文筆活動に専念する。日本国内、国外を問わず各地を旺盛に旅する行動派作家として知られ、活力あふれる描写とみずみずしい感性が多くの読者の共感を得ている。

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