これは平久保に伝わるお話です。
昔々、ある大晦日の夜、一人のみすぼらしい姿の旅人が平久保の部落にやって来て、一夜の宿を頼みましたが、どこの家でも「とんでもない」とことわられてしまいました。部落のはずれのとてもまずしそうな老夫婦の家にもこの旅人はやって来ました。老夫婦は「ごらんのとおり、私達のところにはなんにもありません。せめて火だけでもたいて暖かい正月にしようと話し合っていたところです。それでよかったらどうぞ入って、暖まってください」と旅人を招き入れてくれました。火に当たってやっと暖まった旅人は、家の外から木の葉や草をとって来て火のまわりに置き、持っていた杖で何かをつぶやきながらとんとんとたたきますと、そこには次々とお正月のごちそうが出てきました。それがすむと旅人は老夫婦に「お風呂に入ってください」といいます。二人が家の裏に出てみると、そこには立派なお風呂が温かいお湯で満たされています。老夫婦がそのお風呂に入ると、すーっとからだが軽くなって、なんと二人は五十も若返って元気な若夫婦になっていました。それを盗み見した隣の金持ちが旅人をむりやり自分の家につれて行って、たくさんのごちそうを食べさせ、急いでお風呂をわかして、その風呂に入ったのですが、金持ちの家族はみんなブタになってしまったそうです。