廉太郎は迎えに来たぼくを見ているだけで動こうともしなかった。
案内所の男が事情を説明した。ジュースを持ったままフラフラと歩いている廉太郎に声をかけたのは、ここへ連れてきた若いふたりの女性だったという。
「迷子になったの?」と尋ねたら頭を横に振る仕草があまりにも可愛いので、あれこれとふたりで構っていたらしい。しばらくするとパラソルの下で寝入ったという。いつまで経っても起きださないのでひとりの女性が起こそうとしたが、看護師をしているもうひとりの女性が脈を測り、遊び疲れたのだからたっぷり寝かした方がいい、ということでずっと放置していた。ところがスピーカーからくり返される名前が寝ている童から聞いた名のような気がして仕方なく起こした。
「ねえ、坊やの名前はレンタロウ君かしら?」
寝ぼけながらも頷く。
「今、迷子のアナウンスがあったの、一緒に案内所まで行く?」
廉太郎は立ちあがるとまるで散歩にでも行くように若い女性の手を握ってきた。案内所に着き名前を告げても廉太郎は平然としているばかりかボール投げをせがんできたという。
大まかの事情は把握できたが、ずっと立ちつづけている廉太郎の姿がぼくには不思議だった。
「お兄ちゃん、ママの所に行こうか」
ぼくが係員から離れて廉太郎の肩を抱くと、コクと頭を下げた。そして、歩きだすと同時に肩を震わせて嗚咽を漏らす。若い女性とボール遊びをしていたときの快活さは消え、この世の不幸を一身に背負ったような泣き方をしている。
「迷子にさせて悪かったね、本当にごめんね」
ぼくの言葉に反応してますます泣き方が激しくなる廉太郎の表情は以後忘れることはなかった。
バックミラー越しに眺める息子の姿は充分に大人ではあるが、記憶の中の息子はいつも泣き虫だった。
誰とも行き会わない小浜島の道路を、ぼくのバイクと息子の自転車は「はいむるぶし」を目指していた。小浜島で最後の見物となる施設だった。