自衛隊は軍隊である

 市長選挙が終わるのを待っていたかのように、海上自衛艦が入港し、経済団体や防衛協会関係者が盛大に歓迎会を開催した。
 平和を守る八重山連絡会議が入港拒否を要請したところ、中山市長、我喜屋商工会会長、宮平観光交流協会会長がこれを拒否した。
 当然のこととはいえ、彼らは口を揃えて言う。「自衛隊は国を守る大切な機関」「自衛隊は急患輸送等も行っており、地域としてもお世話になっている」と。それは一言でいえば、表層をなぞっているにすぎない。
 自衛隊は軍隊である。軍隊は「国」を護るのであって、「国民」を護ることはない。
 国の要素を簡単にいえば、国民、領土、統治権であろう。領土内に国民がおり、統治をする権力がいる。国家を自由に出入り出来ないから、国家〈国体〉の本質は権力ということだ。
 ところで、国家がなくても、人々は死ぬわけでもない。〈生きて〉生活をしていたのであり、戦後の八重山自治会や八重山支庁の例をみれば分かるというものだ。〈国破れて山河あり〉とはまさにそういうことであろう。
 権力の暴力装置が軍隊である。そんな軍隊である自衛隊が急患輸送等本来の任務であるはずがない。
 国民の生命財産をまもるのは警察の仕事であって、軍隊は国の平和と独立をまもるのである。国とは国体、国家体制のことであるとは、来栖弘臣自衛隊統幕議長が述べたことである。
 先日、テレビを観ていたら、竹田恒泰という、家系意識を鼻にかける、鼻もちならない逆立ちした論理を振り回す者が、日本の国体は一度も途切れたことがない、連綿と続いているということをまくしたてていた。天皇制は国家開闢以来、今日に至るまで存在しているということである。
 冗談だろう。
 春秋の叙勲の賞状に捺されている「大日本国爾」の発想と同じである。現在は、日本国である。大日本ではない。なのに、なぜ、日本国ではなくて大日本国爾か?
私の素朴な質問に、国の関係者は、第二次世界大戦で敗れようが、そのようなことは一切関係ない。大日本という国家体制は連綿として続いているというのだ。
 そうなのだ、国民や領土を切り捨てても、国体(天皇制)は存在するというのである。
 沖縄戦(八重山戦もふくめて)で、軍隊は国民を護るものだと住民は歓迎した。慰安のため芸能を披露し、糊口のなかから食糧や労働力を提供した。だが、軍隊は国体を護るのが役目であるという本性を現し、住民の食糧を強奪し、牧場の牛馬を勝手に屠殺し、マラリア地帯へ追いやり住民を塗炭の苦しみに陥れた。
 海軍石垣島警備隊の井上司令、井上副司令は「奴らはアメチャンだ、チャンコロと同じよ」「奴らは現地人で、我々日本人とは違う。奴らはスパイだ」と蔑視と差別、偏見で八重山住民を視ていたのである。
 これは、宮良集落に駐屯した旅井部隊長の手記にある。波照間の山下軍曹も同じである。
 軍隊は住民を護らず、逆に死に追いやったことは明白だ。
 敗戦が迫ると、天皇の名代として、近衛文麿をソ連に派遣し、ソ連を通じて連合国と交渉する予定であった。満州に移住した人々を置き去りにし、兵士は被害を受けた国の復興に尽くすように、本土を除いてすべて連合国に譲渡するので、国体は解体しないで欲しいという案であった。
 天皇は共産化を恐れ、三種の神器を護るのに必死であった。自分の暴力装置でしかない軍隊さえも、いざとなれば見棄てるのである。国民に目を向けるはずがない。
 以前にも書いたが、久間元防衛庁長官は国民保護法制をめぐるなかで、国家の安全のためには個人の命を差出せとはいわないが、90人の国民を救うためには10人の犠牲はやむをえない―と恐ろしい発言をしている。
 日本の人口は2010年の国勢調査によると1億2千8百万余人だから、1千2百万余が死んでもいいということになる。これは大変な数字である。沖縄県の人口だつて百三十万余しかないであろう。九州の人口より僅かに少ない数字だ。よくも平気でそんなことがいえるもんだ。これを読んでいるあなたも、その死者数字のなかにふくまれているかもしれないのだ。
 とてもじゃないけど、国を護るために命を捧げるなんて馬鹿らしい。家族を護るために命を捨てるのならいざ知らず、こんな連中のために死者の数に入るなんて、まっぴらごめんだ。唯我独尊貫くべし。徹底したエゴを押し通すべきだ。
 民滅びて国ありなんて逆立ちしてもありえない。
 宮平康弘観光交流協会会長は「平和うんぬんという議論は飛躍しているのではないか…(略)」(八重山毎日3月29日号)と述べている。なにが飛躍しているか。自衛隊問題は政治問題であり、防災問題ではない。市長選挙で新報やタイムスを防衛省が何故問題にしたか。政治問題だからだ。これだけ世論が分れているのによくもまあそんな発言ができるもんだ。
 防衛協会に踊らされて、〈お客様は神様だ〉、こんなことでいいのか。島じゅう、軍人から、観光客からであふれ気が休まらない。我らが島とはいったい何だ。観光業者の島ではない。
 自衛隊も観光客もこれ以上要らない。落ち着いた島に戻してくれ。

大田 静男

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