●クイツ姫の最後はどちらが本当?
昨年末の子ども演劇「オヤケアカハチ-太陽の乱」(平田太一演出)を見た小学生が、アカハチに興味をもち、さっそく学校の図書館でアカハチの物語を読んでいるという話を聞いた。嬉しくなる。実生活での刺激が読書につながる。またはその逆でもいいが、それは理想の図書館活用法ではないだろうか。
小学生が読んでいた本は伊波南哲の『オヤケアカハチ-沖縄のものがたり』(岩崎書店)。40年前に出版された本だ。紙もすっかり赤茶けた古い本だったが小学生は夢中になって読み、さらに疑問が湧いたようで司書に質問をしたという。「物語でクイツ姫は断崖から飛び降りて死ぬけど、演劇ではそうではなかった。どちらが本当ですか」という内容。「う~ん。」たずねられた司書も即答はできず、「調べておくね」と約束したという。
質問・疑問は利用者、司書両者にとって宝物のようなものである。利用者の質問によって図書館は磨かれ成長するからだ。よく利用者の身の丈と同じに図書館は育つといわれるし、図書館をみれば住民がわかるといわれるゆえんだ。
●新アカハチの誕生があってもいい
アカハチに関する古記録は少なく、まだわからないことがたくさんある。しかし少ない記録ながら、髪の毛が赤い大男であったという個性ある風貌。権力に抵抗し庶民の味方だったというヒーロー性。妻の兄に征伐されるという悲劇性。妻の姉は最高位の神職という神秘性。これらの記録が伝承の隙間の空想をかきたてるのに充分な要素になり、アカハチ人気の最大の理由になっているのではないだろうか。これからも新しいアカハチ物語が出現しても良いし、本や資料などを活用して「読み手それぞれのアカハチ物語」を誕生させてもいい。
そういうときに役立つこと間違いなし!の資料がある『オヤケアカハチの乱関係資料目録』比嘉真一編(沖縄県立図書館八重山分館)。簡素な冊子だが311件ものアカハチ関係資料が網羅されていて、よくぞまとめてくれたと頭が下がる目録である。
●没年50歳だったアカハチ
現在、アカハチ関係で児童生徒向きの本は少ない。伊波南哲、新川明の物語が有名なところだが、民話『宮良松の語りオヤケ・アカハチ(1)~(5)』( 月刊やいま2000年5月号~9月号)も貴重だ。
また、新聞掲載記事の『子ども劇団「オヤケアカハチ-太陽の乱」公演に寄せて(1)~(6)』砂川哲雄(2006年2月13日~2月21日八重山毎日)は、平易な言葉で書いてあるので唯一子どもが読める解説文だろう。
それによるとアカハチが「征伐」された年齢はおよそ50歳だったというからなんとビックリだ。映画や演劇、または挿絵や銅像の影響か、どうしても若者をイメージしてしまう。またアカハチは「人頭税の圧政に反逆」ともよく聞くが、その頃はまだ人頭税はない。さらに近年では韓国のホンギルドンと同一人物説なども登場している。夢があり、話としてはおもしろくそうあって欲しい気持ちは理解できるが、時代考証や裏付けの範囲内の創作であって欲しいと前述の小学生を想像しながら思う。その上で新しいアカハチの誕生があってもいいのではないだろうか。
●夢枕にアカハチとクイツバが
ところで、とても興味深い新聞記事がある。見出しは「470年前のアカハチの遺骨? マイツバ境内から出る 副葬品はなく大浜へ移す」(1970年9月23日八重山毎日)。記事の内容は、「嘉数貞江司(つかさ)の夢の中でアカハチとクイツバが移転を頼んできたことが発端で、伝承のあるがじゅまるの根元を掘ったところ骨がめが出てきた」という内容だ。1970年代にこんな話がまだあったのかとビックリする内容である。
後に私も当事者のマイツバ御嶽の真境名司(つかさ)から直接お話を伺ったことがあるが、立派な骨がめであったこととを話しておられた。「かだがなーあだどぅらー」と足の骨がこのくらい大きかったと両手で長さを示しておっしゃっていた時のことを思い出す