モンパノキは八重山諸島の海岸ではごく普通に見られる植物で、海側からグンバイヒルガオ、ハマゴウなどのほふく性植物、つづいてハマユウのような多年生草本、その背後にクサトベラ、アダンなどと共に海岸林の前哨的存在を担っています。島々の海辺の景色を想像する時、真っ先に思い浮かぶ植物でしょう。
作家・椎名誠氏は「モンパの木の下で」と題する文の中で「海べりのちょうどいい日かげになっているので別名ヒルネの木」と称しています。確かにモンパの木陰から穏やかなイノー(ラグーン)の海を見ていると海風に誘われて居眠りしたくなります。
そんな馴染み深いモンパノキですが、名前を何度か口にしているうちにふっと疑問がわいてきました。「モンパ」ってなにかしら? 図書館で「植物名辞典」を引いてみると「ハマムラサキノキ、紋葉の木」と書かれています。「紋葉」の意味がいまひとつわかりません。さらにいろいろ調べてみると「葉には微細な毛が密生している」ことをビロード状に例えた文もありました。このビロードに似た布で足袋地などに使われる「紋羽」と言う綿布があります。もしかすると昔の植物学者が、葉の手触りなどから付けられた和名かもしれません。
一方、沖縄方言では、「ソーキギ、ハマスーキ、ミーカガンキー」などがあります。「ミーカガンキー」は海中眼鏡を作る木の意味です。昔、糸満眼鏡はこの木から作られました。
モンパノキの種子は、果皮がコルク質になっていて水に浮き、海流散布されます。そのため海辺の第一線に自生するのですが、近年、砂浜で根がむき出しになった姿をよく見かけるようになりました。原因は高潮などによる海辺の砂の流出と浜への車両の乗り入れがあるようです。四輪駆動の自動車が普及して砂浜に轍の痕が見立ちます。斜面の砂浜は潮が満ちる度に轍の凹凸を削り取りイノーを埋めていきます。
島々の海辺にはいつまでも「ヒルネの木」があって欲しいものです。