名蔵アンパルの動植物たちシリーズ(7)

ハスノハギリ 海岸林の主役とも言える植物

 海岸林もしくは海岸近くの植生は、海からの風や潮などの影響を受けやすいため、それらの環境に適応した植物によって構成されています。また、海側から種子がもたらされる(海流散布される)植物が多種を占めることも特徴のひとつです。そして、海水準の影響を受けるため地球史的時間の中で変動的であることは否めません。
 ハスノハギリは、主に石垣島、西表島などでイノー(礁湖)に面した海岸林の重要な樹種です。方言では「トカナッ」、「ズンギー」、「ジンジンパーレーキ」と呼ばれるハスノハギリ科の植物で、西は東アフリカから東はポリネシアに至る熱帯・亜熱帯の海辺に分布します(図1)。奄美諸島辺りが自生の北限になります。「平久保安良のハスノハギリ群落」が、2013年6月21日、国の天然記念物に指定されました。
 名蔵アンパルの砂州でも見られますが、樹高が10m以上のものはそれほど多くありません。中央を県道が通る砂州ですが、主に海側に自生しています(写真)。名蔵湾に面した海岸では、赤崎から電信屋に至る範囲で海岸林を構成している高木が目立ちます。これらの観察からも名蔵アンパル砂州の形成、およびそこでの植生が「若い」ことが窺えます。
 石垣、西表の山地には海抜100m前後以上からイタジイ、オキナワウラジロガシなどを主とした極相林があるのに対し、それ以下の低地では海水準と島の隆起の影響を受けた植生が見られます。ハスノハギリが於茂登林道付近に自生することはなく、海岸近くにだけ自生するのは、新生代第四紀の度重なる気候変動(海水準の変化)によって近年得たポジションだからです。
 しかし、島の周囲は常に海が取り巻いています。海から種子が漂着する植物たちは、時代によって位置が変ったり、構成種を変化させながら海岸林を維持しようとしています。ひとたび陸に根付いた個体は、重力散布で周辺に子孫を残します。やがて他種との競合がはじまります。

深石 隆司

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