「この貝はハマグリ?」。マングローブ林の泥場を歩いていると泥から殻の一部を出している大きな貝を見かけることがあります。この貝がシレナシジミです。本土に生息するシジミは殻長1cm程ですがシレナシジミは10cmを超す個体もおり、世界一大きなシジミと言われています。奄美大島以南に分布していて、東南アジアでは食べるようですが、殻の割に中身が小さいこと、食べても泥臭いことから地元ではあまり食べません。かつては泥場を歩くと足に当たって痛いほどいて、お玉を作るのに利用したそうです。崎山静八十五歳生年記念「八重山の料理」の中では、新築の祝いの料理「ナカバラーヌニンガイ」の中で「キカジョー」と呼ばれて一皿祭ることになっています。あまり食されはしなかったけれど人と繋がりの深い貝だといえます。ところで、この貝には、マングローブシジミ、ヒルギシジミなどいくつかの名前がついていていますが、実際のところ何種類いるのかよくわかっていません。また、小さな個体(稚貝)を見たことがあるかどうか尋ねると、決まって見たことがないという返事が返ってきます。本土のシジミと違ってほとんど研究されていないのが実情です。
一般に二枚貝は水中の有機物を取り込んで食べるので水の浄化に役立っているといわれていますが、大きなシレナシジミはマングローブ林を流れる水の浄化に役立っていると考えられています。また、マングローブを象徴する貝としても知られています。生態系を守るためにも、八重山の伝統を継承する上でも大切に守ってあげて欲しいものです。