目の前に現れた青年は、まさにオヤケアカハチの生まれ変わりのような精悍な顔をしていた。といっても500年前の英雄の顔など当然ながら見たことなく、勝手な想像でしかないが、こんな感じだったのだろうかとの思いを抱かせる。
そういう意味でも、’05年に上演された「現代版組踊 オヤケアカハチ太陽の乱」で佐久川さんが演じたアカハチ役はまさに当たり役だった。当時、八重山商工高校3年生だった彼は、「とにかく目立ちたくて(笑)、やるなら主役がいい、と思って自分から名乗り出たんです」という。そこで演出家の平田大一さんとの出会いがあり、大きな影響を受けたことがその後の道標となったようだ。
高校卒業後は上京し、現在はバイトをしながら俳優活動をしている。これまでに、ドラマ「マイボス・マイヒーロー」(不良役)や、大平洋戦争を描いた映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」(特攻隊員役)などに出演した。
上京して2年でこれだけ出ていれば順調のようにみえるが…。とはいえ、いざやってみればセリフのない役だったり、不良の役しかこなかったり、仕事自体もなかなかなかったりと、悩みも大いにあるらしい。「ストレスでお腹に石もできました。向こうでは島のように遠慮しているとダメで、図々しいくらいじゃないといけなかったり…。少しの間違いにも厳しいしね。それに自転車に乗ってたら車にひかれたことも…、でも無傷でした(笑)! まぁ、どんなことでも、経験したことを全部活かしていけたらいいなとは思っています」。
そして、「7月には舞台で演出助手をさせてもらいましたが、いい勉強になりました。裏方をやってみて、役者側の気持ちも裏方側の気持ちも分かるようになりました」という佐久川さんの目標は、意外にも「演出家」という冷静な答えだった。
「今後、俳優として売れなくてもいい。とにかく技術を身に付けたいんです。平田さんのような演出家を目指したい。アカハチで学んだ発声などは向こうでも通用するものでしたし。それに、今は演技だけにとどまらず、歌とかにも挑戦してみたいです」。
もし、彼がアカハチのようなカッコいい英雄になれなかったとしても、いつか自分のやりたいことを実現して笑ってくれれば…、そう願った。