息子との旅 vol.17

 機首が下がると窓外に竹富島が見えた。すぐに石垣の桟橋が現れ、マッチ箱のような家々が目にとび込んでくる。
「どんな大事な話なの?」
 廉太郎が少し不安そうな表情を覗かせたが着陸の衝撃でそれは消えた。
 一日ぶりの空港ターミナルがひどくなつかしく感じた。機体が止まると乗客がせわしなく動き出したが、廉太郎は身じろぎもせず考え込んでいる。
「お父さん、何か重大な事を告げるためにこの旅を計画したんじゃないの?」
 ぼくは残り少なくなった缶ビールを呑み干し顔を横に振った。
「話そうと思ってることはあるが、そんな深刻な話じゃない」
「だったらさっさと言ってよ」
「まあ、後でゆっくりと」
 乗客のほとんどが出口へと向かいだしたので、廉太郎は仕方なく腰を浮かしたが顔から不安は消えていなかった。
 夕方にはまだ間があったが曇天のせいで風景は冴えなかった。それと同じように廉太郎の表情にも冴えがない。考えてみれば、大した説明もなく八重山をふたりで旅しようと誘った。
「お前が悩むような話ではない」
「それが嘘っぽいんだよな」
 二年前、廉太郎が通っていた私立中学を辞めさせた。それはぼくの経営していた会社が傾き始めたからだった。高校までストレートで行ける学校だったが、授業料を払い続けるだけの経済基盤が揺らいでいた。
 大事な話があると告げた翌日、ぼくはリビングのテーブルで廉太郎と対峙した。隣の妻にはぼくの決心を伝えてあった。
「会社が大変なのはもうわかっているよね」
 ぼくの声は緊張でうわずっていた。中学二年の二学期を迎えていた廉太郎は軽く頷く。
「お父さんも必死で努力しているが、時代の波にはたち打ちできそうもない。もしかすると最悪倒産ということになるかもしれない」
 含みを持たせた言い方だったが、銀行からの借り入れはすべて断られ、いかに最後を迎えるかという状態だった。

小浜 清志

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