与那国空港に到着した飛行機に乗り込んでも、ぼくは自分の過ごしてきた過去と一緒に旅をつづけている息子の廉太郎の比較を行っていた。
人生はどう生きるべきかという命題を支えきれなくなっていた高校生活は、ぼくにとって灰色でしかなかった。高校中退は親の大反対で実行できなかったが、ぼくには大学という文字が日々遠ざかっていった。
飛行機は雲間を抜け一気に上空へ昇った。窓から差し込む陽光が席へ座ってすぐに寝入った廉太郎の横顔に当たっている。そっとブラインドを下げしばらく寝顔を見た。寝ていてもどこか自信に充ちた表情が漂っている。
落ちこぼれた人生を立て直そうと必死に小説を読んだ。受験勉強に取り組んでいる級友たちとは挨拶すらしなくなっていた。一日も早く高校を卒業し石垣島という小さな枠をくぐり抜けたかった。行き先は東京だと決めていた。行けばどうにかなるという期待はなかったが、足枷だけは外せると思った。
そんな暗い気持ちを抱いていたぼくとは違い、廉太郎は外から見る限りでは高校生活を満喫しているようだ。中学から続けていたバスケットボールは怪我で断念したが、今はボクシングにはまっている。
廉太郎の目標は至って明確だ。学校の教師になりクラブの顧問になるという。そのためにバスケをやってきたし、今はボクシングである。週二回のジム通いで身体は筋肉の固まりになっている。東京理科大を目指しているのも教師になるには有利な大学だからという。
ぼくの高校生活が暗であるなら、廉太郎の生活はまさに明そのものに見える。もちろん、人に言えない苦悩は抱えているだろうが、その気配は微塵も感じさせない。
間もなく石垣空港に着陸しますという機内アナウンスで廉太郎が目を覚ました。ぼくの右手に握られている缶ビールを見て苦笑いをする。
「旅しようと誘ったのはお母さんの目を気にせず呑みたかったのか?」
「それも大きな理由だが、もっと大事なことがある」