与那国島での一泊を終え、石垣島に戻る空港ロビーでぼくは今にも雨が落ちてきそうな空を眺めながら、昨夜のドナンの酒が残る胃袋にオリオンビールを流し込んでいた。
息子の廉太郎は空港の展示物を丹念に見ている。
飛行機の到着が少し遅れるとのアナウンスが流れると廉太郎が飲み物を催促した。空港内のドリンクショップで向き合って座った。廉太郎がメニューをじっくりと見る。その仕草にぼくは少し焦立つ。
「女みたいにメニューで悩むなよ」。
ぼくの嫌味を平然と聞き流し、廉太郎はメニューから目を離そうとしない。数分経ってから手を挙げて店員を呼ぶとメニューの裏をぼくに向けて飲み物を指先で注文すると、あと中生ひとつね、と追加した。酒さえ与えておけば心優しく寛容な父であることを知悉しているのである。ぼくはついさっきまでの焦立ちを忘れ相好を崩す。
「お父さんの事をよく知ってるな」。
「実は俺も呑んべえになると思うから」。
「酒の世界は地獄もあるが、時には潤滑油の役割をすることもあるからうまく付き合いな」。
運ばれてきた生ビール中ジョッキに口をつけてから説教をたれた。
「でも、玄関で寝るほど俺は呑まないようにするさ」。
廉太郎の嫌味を今度はぼくは聞き流す番だった。
注文を忘れているのかと心配した頃、カラフルに飾りつけられたフルーツ入りの飲み物が運ばれてきた。
「アラーグ、フガラッサ」。
廉太郎の言葉に店員の女性が一瞬とまどいを見せたがすぐに満面の笑みに変わった。
「いいえ、どう致しまして。ドナンの旅はいかがでしたか?」。
「最高でした。フガラッサ、サンキュー」。
「こちらこそメルシーボクー」。
トレンチを胸に当てた店員が鮮やかに切り返すと廉太郎が応戦する。
「ダンケシェ」。
「シェイシェイ」。