別名サワフジは、亜熱帯や熱帯地方の湿地帯に咲く妖艶な花と言えよう。南西諸島奄美大島を北限とする高木広葉樹でマングローブ林の後背地に自生している。開花時期は、六月中旬から七月中下旬といったところ。今年は寒さが少し長かったのか、遅めの開花となった。西表島の舟又はカヌーの航行できる川には、今盛りの花を一目見ようとのサガリバナツアーツアー客で人気。
夕暮れと共に咲き始めた花は、早朝に全開。ポトリポトリと川面に落ち行く様は、人生の瞬時を感ずるもの。そして、下流に向かってお互い寄り添いながら花弁を並べて流れゆく。カヌーが推進する引き波で上下に揺れてポカリポカリ。
これほど人を魅惑し、幻想させる花があろうとは。大柄な月下美人とは違う妖艶さを漂わせ落下し、漂白の花弁の旅となる。その後、花の運命はどうなるのだろうか。川下まで流れつき、大海原へと向かうのだろうか。いえいえそれはありません。おそらくは川面の奥深くに沈下し、川底で藻くずとなり果てるのだろう。
かくして、サガリ花の時節は終わり、南国の灼熱の太陽は、容赦なく人肌を刺し、いつの間にか、夏は過ぎゆくのである。
今回は幽玄なサガリバナの三つの姿態をお届けしよう。