前回に続いてシレナシジミの話です。この貝はアンパルのどこにでも棲んでいるのでしょうか、それとも限られた場所だけに生息しているのでしょうか。このことを調べるために、名蔵大橋から上流部まで歩いて、泥の上に出ている貝がどこで見られるか調べました。すると、どこにでもいるというわけではなく、主にマングローブ林の泥場にいることがわかりました。次に、マングローブ林内のどこにたくさんいるかを調べるために流れに沿って上端部、中流、下端部と3カ所で10m四方の枠を設定し、そこにいるシジミを採集し、各地点で、どのくらい生息しているのか、どんな大きさのシジミがいるのか調べました。すると、中流にたくさんいることがわかりました。また、下端の方は小さい個体もいて大きさにばらつきがありますが、上端ではほとんどが大きい個体であることがわかりました。このことから、シレナシジミは成長に伴って下端から上端まで約500mを移動しているのではないかと考えました。
ところで、この調査に伴って新たな問題が出てきました。それは、殻長35mmより小さな個体がほとんど採集できないのです。シレナシジミというと大きいというイメージがありますが、小さい個体がいないということは子供がいないということになります。この原因としては、産卵がされていない、産卵は行われているが何らかの原因で見つかっていないことが考えられます。この疑問を解決するために、解剖して卵があるかどうかを確かめることによって、産卵しているかどうかを調べることにしました。たくさん解剖すると正確なことがわかりますが、産卵していなかったら乱獲してしまうことになります。そこで毎月10個体ずつ解剖し、卵をもっているのか、もっているとしたら何月が多いのかを調べました。予備実験として、図鑑を見ながら解剖してみましたが、実際解剖してみるとどこが生殖腺かわかりませんでした。困っていると、東海大学の北野忠准教授に産卵期になると生殖腺から卵があふれだして観察できることがあると教えていただきました。そこでえらを中心に検鏡してみると5月の貝から卵を見つけることができました。これがきっかけで生殖腺もわかり、観察の結果5月末から8月が産卵の最盛期であることがわかりました。この結果から、産卵は行われているが稚貝(貝の赤ちゃん)は見つかっていないと考えるのが妥当だとわかりました。分布調査の結果もあわせると、もっと下流部に生息している可能性があるので、これから調査したいと考えています。