「こわいもの見たさ」とよく言うが、著者は、楽しい話、ゆかいな話、美しい話のみでは、うすっぺらでつまらないものになってしまう。人間の心の奥には、喜び、怒り、悲しみ、楽しみという感情がひそみ、こわい話やおろかな話、悲しい話などがあってこそ、物語の世界は魅力的なものになるのだ、と本書の冒頭に述べる。
たしかに情報や娯楽はもてあますほど満ちている現在でも、昔から伝わる怪談は、何度でも読みたくなる魅力をもっているし、そこには人間の空おそろしい本性が描き出されていたりする。話を読んだあとは、うすっぺらでつまらないように見える日常の陰に、深く底知れない世界が横たわっているだろうことを意識せずにはおれない。地域に伝わる怪談は、その地域独特の風俗、習慣も描かれている故、いっそうの臨場感もあり、また、その地域ならではの教訓を含むことも多い。
本書は、「耳切り坊主」「真玉橋の人柱」といったなじみの話から、「石垣島の崎枝鬼」のような八重山の話まで、沖縄各地の怪談から選りすぐった19編が収められている。それぞれの話に合わせた筆致で描き分ける安室氏の挿絵もドラマチックで、想像をかきたてる。沖縄の怪談をきちんと読んだことがない、という人も、まずはこの本から。
『おきなわの怪談』
文/徳元英隆 絵/安室二三雄
沖縄文化社 915円+税