子どものお箸ほどの長さの小枝を、先程からまじまじと見つめています。鳩が、あの小さな嘴でくわえて運んで来たものです。
このところ、鳩のつがいが我が八階のベランダを好んでデートの場にしているらしく、クゥクゥという睦言に安眠妨げられるし、そこら中に糞をされて困っていました。
先日、近くの百円ショップで見つけた動物忌避グッズ。座った猫をかたどった樹脂製の平面板、目にビー玉をはめ込んだ黒猫です。早速ベランダの物干し竿受けにくくりつけました。風があるとクルクルと回り、その都度深い藍色の目玉がこちらを睨みます。
ある朝、いつものように一羽の鳩がベランダの手すりに止まりました。いつもだと追い払うのですが、サッシ窓越しにしばらく眺めていました。立ち止まったまま、猫の方を見ながらしきりに首を右に傾け、左にかしげては様子を伺っています。一、二分もそうしていたかと思うと、飛び立って行ってしまいました。猫を前にすぐに逃げ出さないということは、偽物だということは認知しているようです。分かってはいても、やはりあの目玉には手も足も出ないという事でしょうか。
翌日、洗濯物を干す際に気付いたのが、冒頭の小枝です。ああそうか、彼女(?)は一度巣作りをせんと小枝をくわえてやって来たのです。ところがあの目玉。キャッとでも叫んで落としてしまったのでしょう。そして今度は小枝を取り返しに来たのです。しかし、やはり近付けなくてあきらめたのでしょう。
それ以来、彼女の姿を見かけません。
○何ぞ悩める事どもありや 首をかしげ、また傾けては鳩が立ちゐる