先月紹介した「男女の図」には、キセルを奪い去る妻の様子が描かれていた。そこに描かれたキセルは、白い胎土に釉薬をかけた上質の施釉陶器、いわゆる「上焼(ル・ジョウヤチ)」のキセルであった。ジョウヤチキセルは「高麗きせる」とも言う。琉球諸島で見られるキセルには様々な種類があるが、一般的な無釉陶器の「荒焼(ル・アラヤチ)」や石を削った粗末なキセルではない。妻からしてみれば、そんな贅沢品でタバコを吸う亭主の放蕩は看過できなかったことだろう。
さて八重山で描かれた絵に登場しているということは、八重山でジョウヤキキセルが使われていたということになる。実際に遺跡から出土している。写真は野底遺跡から出土したキセルの吸口(口にくわえる部分)である。簡単ながら紋様も施されており、琉球の他の素朴なキセルと比べて飾り気がある。豪奢なジョウヤチならではといえるだろう。
さらに面白いことに、この吸口はかなり大きい。前に石垣市字大川の黒石川窯址から出土した大きなキセルの雁首(タバコを詰める部分)を紹介したが、どうやら石垣島の人たちはこうした大柄なキセルを好んで使っていたらしい。
八重山にしか見られないこうした大柄なキセルは、八重山の地で作られていたと考えるのが自然だろう。かつて八重山では、放蕩な男たちを魅了し、理性的な妻たちの眉をひそめさせる豪奢なジョウヤチキセルが作られていたようだ。