キセルに次いで、先号ではキセル入れの話をした。今回はタバコの加工具の話である。
収穫されたタバコは乾燥され、吸い方に従って様々に加工される。キセルの小さな火皿に詰めるには、タバコの葉は大き過ぎるし、また火が付きにくい。『八重山島在藩役々勤職帳』(一八一六年)には、「割たわく」、「切たはこ」という文字が見られる。キセルで吸うために刻まれたタバコの葉のことであろう。
タバコを刻むためには専用の包丁が使われた。『冨川親方八重山島仕上世例帳』(一八七四年)の「多葉粉割夫例之事」には「たはく割用包丁」という道具が見える。「多葉粉割夫」とはタバコを刻む人のことであろう。そして「たはく割用包丁」とはタバコを刻むための専用の包丁のことであろう。
タバコを刻むには葉を一枚ずつ刻むのではなく、丸めて板で押さえて刻んだ。タバコを挟む板は「チリバン(切り板)」と言い、タバコを上から押さえる板を「ウシイタ(押板)」と言った。『琉球国異人之届・書面』(一八五七年)には、漂着したオランダ船へタバコと共に「割包丁 切口押板共」が提供されている。どんな理由か分からないが、漂着民にタバコの加工具を渡したようである。
タバコの葉を刻む様子は少し前まで各地で見られたという。刻みの腕次第で味は変わる。一律に美味しい紙巻きタバコが買えるのは最近のことで、それまでタバコの味は人によって違うものだったのだ。
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火皿が煤けたキセル。刻みタバコを詰めて火を付けた証拠である。(阿波根古島遺跡・沖縄県立埋蔵文化財センター所蔵)。