今回は、伊原間の集落に置かれているアカフチをご紹介したいと思います。アカフチとは、魔除けの獅子のことで、漢字では「赤口」と書きます。このアカフチは、集落の南西にある大浦山の中腹にそそり立つ、巨大なティラ石と呼ばれている岩に対座させて置かれており、現在のアカフチは三代目です。伊原間の村史によりますと、一七九二年に、伊原間では風禍のために農作物は枯死し、疫病が蔓延して、人々は窮乏のどん底に陥っていました。この状態は、何年経っても一向に収まらず、村人は何かの祟りで、その原因がティラ石に魔物が住んでいるからではないかと思うようになりました。昔の人は、何かにつけて巨大なものには魔力が宿っていると信じていたからだそうです。それで村人は、お嶽の神様に救いを求めたのですが一向に効き目がありません。そこで村人は、ティラ石よりも強い獅子を作って村を守護してもらおうと思い、獅子を作り、神力がこもるように七日七夜祈願しました。すると、村は安泰し、平穏な暮らしが戻ったそうです。
ところで、この獅子のことを何故アカフチと呼ぶようになったかということですが、未だ分からないそうです。陰陽道では、「赤口」(しゃっこう)とは、祝いごとや新たな行動は控えた方が無難と言われている日で、特に火災や怪我に対する注意を喚起しているそうですが、このこととはどうも関係がないようです。ともあれ、今はその存在すら忘れかけられているこのアカフチのお陰で、平穏な暮らしができるのかもしれません。アカフチの姿に歴史を感じます。