軽快なリズムに乗って、農具を引っ提げた老農夫が舞台の袖から現れる。老人と分かるのは、そのヨタヨタとした歩き、そして何よりもあのアンガマの面に似た皺くちゃ貌。我が黒島に伝わる踊り「山崎ぬアブゼーマ」の出だしです。老農が一踊りした後に、薬草摘みの村娘が登場。一目惚れしたアブゼーマがあの手この手で誘惑、ねんごろになっているところへ、妻が愛妻弁当を持って現れる。さあ、そんな状況下での場面展開や如何に!
そんな黒島の民謡を仮面舞踊化した踊りに魅力を感じ、初めてアブゼーマ役を演じたのは、平成八年父が亡くなった年です。先輩郷友のアドバイス、父が送ってくれた石垣在黒島郷友会の四十周年記念公演のビデオテープが師匠でした。喪に服すべき年にあえて舞台に立ったのは、遠くヤマトゥの地にいてもちょっとした場で沖縄の踊りを踊っているという娘の要望に応えて、必要な衣裳下着や手作りの小道具やらを喜んで送ってくれていた父への、むしろ弔意でもありました。
当アブゼーマ役を、年に一度の関東・黒島郷友会の総会の場で何回か演じさせて頂いてはいるものの、なかなかの難物です。まず、お面をかぶっての踊りという事です。視界が極端に狭く、かなり不自由です。一度、八重山郷友連合会主催の舞台に立った時、腰にぶら下げていたプゾー(煙草入れ)の中のキセルを落としてしまい、顔を真下に向けて探すわけにもいかず、踊っている内に足裏が探し出したということもありました。
好色爺・アブゼーマの年齢設定は?、ピョンカ、ピョンカと跳ねたくなるような、あの軽快なリズムの中、如何に老人らしく演じるか、村娘とのからみ、妻とのバトル等など、私の中で未だ納得のいく答えが出ない中を、今度大舞台に立つことになりました。四月十一日(日)、八重山郷友連合会創立十周年記念公演です。さてさて、どうなることやら。
おっと、舞台前日は、先ずマニキュアを落とすことを、忘れないようにしなくっちゃ。
○昨日までのマニキュアの手を たどたどと動かし、老農「アブゼーマ」を演ず