桃林寺は、日本最南端のお寺さんだ。その桃林寺の東門と西門に仁王さんがたっている。仁王さんのカッと吊り上った目と、耳元まで大きく開いた口は、見る者を恫喝する。だから小さい頃、一人では絶対に桃林寺の前を通れなかったものだ。
さて、そんな恐い仁王さんの前を、ついつい通ってしまった蝸牛のお話しがある。昔ばなし「仁王仏とかたつむり」だ。
…桃林寺の門の両側に、勇ましい仁王仏が手をあげて立っている。昔、この仁王仏は生きていた。そして、いたずら坊主が門の前を通る時はこらしめ、お利口な子が通る時は、雨が降っていたら晴れにした。ある日、蝸牛が仁王仏の前を通ったら、ちょうど退屈していた仁王仏に「蝸牛よ、こんな雨の日にどこへ行く」と呼び止められた。蝸牛は、「雨の日だから外へ出るんですよ。これから前勢岳へ薪をとりに行くところです」といった。すると仁王仏は、目を吊り上げ大声で「ばかもの! 雨はすべてのものを休ませるために降らせているんだ!」と怒鳴って、蝸牛をふみつけてしまった。蝸牛は、側にあった小石のお陰で命拾いをしたが、甲羅が傷ついてしまい、蝸牛は痛さに泣きだしてしまった。泣き泣き帰った蝸牛は、家に帰ってその話をすると、蝸牛の一門一族の中に武術の名人がいて「よし! 仇を取ってやる!」といって、武術の名人は桃林寺をめざした。そして、「仁王仏よ仲間を痛めつけたな! 断じて許さん! 出てこい!」と、大声で仁王仏にいうと、仁王仏は大口でカラカラ笑って「握りつぶしてやるぞ!」と手を振り上げた。その時武術の名人は「ヤヤッ!」とすばやく十字を切ると、仁王仏は手をあげたまま体が硬くなって、木像になってしまった…。
畏怖の念で見ていた桃林寺の仁王さんのお話しだ。今では、この昔ばなしのおかげで、怖い仁王さんの顔が、いつの間にかやんちゃ坊主の顔に変身してしまった。そして、よくよく見るとなんだか愛らしい。
そんな愛らしい仁王さんが、新年一月から二月まで、九州国立博物館で展示紹介されるという。どんな顔して立っているのかな。日本最南端の仁王さんを、福岡でぜひ見たいものだ。