今年もまた、多くの若者が島を出ていった。
ほとんどが高校卒業生だ。
ある者は友達同士、ある者はクラブの後輩らに見送られ、花束を抱えてのサヨナラである。
旅立つ者の顔はどれも満面の笑みをたたえている。
そうした見送りのフィナーレが、空港派出所の上の送迎デッキ。
このフェンスに錠がかけられ始めたのはいつの頃からか。
いつのまにか数十におよんでいる。
どんな人が、どんな思いを託しこの錠をかけたのだろう。
小さな島にいればこそ、広い世界の夢を見る。
小さな島だからこそ、島の隅々に思い出も詰まっていよう。
迷うことのない島の道。
釣りをした岩場の形もその色も。
砂の色もその大きさも。
別離の悲しみを歌った島唄に「つぃんだら節」がある。
琉球王朝時代、黒島から石垣島野底に強制移住させられた女性マーペーの物語。
マーペーは将来を誓い合った愛しいカニムイが住む黒島を、一目見たくて日をかけ裏山に登るが、於茂登山にさえぎられ悲嘆のあまりそのまま石になったという伝説。
マーペーは、その心を石にして残している。
錠も心の象徴か。
ともに青い海と空の向こうに、今も恋しい「カニムイ」がいるのだろうか。
旅立つ者は社会人もいよう。
帰島の約束の印かも知れないこの錠は、まじないなのか願いなのか。
それにしても、解くことができなかったのだろう、何年もたったらしい錆びた錠がある。
心には鍵はかけられないものを。
そしてまた、今年も二つ三つ、新しい錠がフェンスにかけられた。