10月12日にリリースされる久々のソロプロジェクト作品、沖縄在JAZZピアニストのサトウユウ子さんとのコラボレーション・アルバム「浄夜(じょうや)」を中心にお話を伺いました。
新良幸人(以下、新良)
ピアニストのサトウユウ子さんとの出会いがこのアルバムを作るきっかけです。八重山の歌でも沖縄民謡でもアプローチさえしっかりしていれば、ピアノで歌っても違和感ないんだと僕は思うし、そういうことに気づいてもらえたらと思います。ピアノの録音状態も物凄く良くて細部の音にもこだわっています。アルバム内の何曲かは、イントロ部分がその場限りの一発録りがいいものになっています。西洋で生まれた楽器と八重山で生まれた歌が一緒になってもいけます。八重山に残っている古い歌の力って凄いなと思いました。
レコーディングは、いつもと違ってほとんど歌だけの丸裸状態。恥ずかしいけど、改めて自分はボーカリストなんだと思いました。彼女といつかは一緒にアルバムをと思っていましたが、レコーディングを終えてお互い「今録って、今で良かったね」言えたことがとても嬉しかった作品です。
新良
選曲は、今までサトウさんとやってきた曲です。1曲目「あがろうざ」は、自分が生まれて初めて三線で覚えた曲で彼女も一番好きな曲です。4曲目「あの夏の日」は、SAKISIMA meetingで一緒に活動している下地勇の曲。初めて聴いた時に気に入っていつかひとりで録音するからねと彼に話していました。10曲目のアルバムタイトルになっている「浄夜」は、今回サトウさんと一緒に作った曲で、テーマは今年震災のあった北に向けています。歌詞では、被害を受けた情景をストレートに歌いたくなくって「飴色の山肌」や、ありえませんが「闇の太陽」という言葉を作りました。実は今回のアルバム、夜のイメージですが最後の曲「明き空(あきすら)」だけは朝です。白保の実家の風景を書いています。庭に咲く茉莉花(むりくばな:ジャスミン)の花を早朝近所のおばさんが朝のお茶の香り付けのために摘みにくる。その花の香りが漂うと白保は朝を迎えると昔から言われます。周囲には白保のメインストリートが通っていて、南北に走るのが「神ぬ道(カンヌミチ)」といって御嶽に続き、実家から海に降りたところが「サコダ浜」。自分の好きな風景です。曲は、下地勇が書いてくれました。
新良
もちろん、八重山でやらなければと思っています。一緒にアルバムを作ったサトウさんも行きたがっています。彼女がピアノと向き合うきっかけとなったのが、昔旅行で竹富島に来て八重山の歌を島で世話になったじいちゃんから聴いてからみたいで、八重山の歌で最初にアレンジして持ってきたのが今回のアルバムにも入っている「安里屋節」です。
新良
そうですね、白保の次に尊敬している場所です。みんな自分を家族みたいに迎えてくれます。今年で10年を迎えましたが、毎年夏には自分のためにライブを予定してくれます。竹富島だったら夏の野外ライブと違って、屋内でピアノの周りに座ってもらい聴いてもらうというのがいいかもしれません。
新良
今回のアルバムは、寝しなに聴いてくれてもいいなと思います。朝起きて「あぁ、昨夜も最後まで聴けなかったなぁ?」なんて。自分は寝つきが悪い方なので、これを睡眠導入剤として聴いてもらってもいいかなと思います。
(月刊やいま2011年10月号より)
新良幸人新良幸人(あら ゆきと)プロフィール
1967年12月16日生まれ。那覇市在住。
11歳から八重山古典民謡を民謡家の新良幸永(父)に師事し、八重山高校在籍中17歳のときに八重山古典コンクール最高賞を最年少で受賞。現在は、那覇市を拠点にパーシャクラブのボーカル&三線、同バンド・メンバーのサンデー(仲宗根哲)とのコンビ、アコースティックパーシャでも活動。また、宮古島出身シンガーの下地勇と共にSAKISIMA meetingというユニットでも精力的に全国で活動中。