先兵

 沖縄のことわざに「いなぐや戦のさちばい」(女性は戦の先兵)という諺がある。
 一五〇〇年オヤケアカハチ征討のため八重山へ侵攻した中山王府軍の先頭にたったのが、久米島のノロ君南風(チンベー)や宮古のあふがま・くいがま姉妹を始め多くの巫女たちである。八重山側も巫女たちが応戦した。呪によって相手を倒すことが目的である。
アカハチ軍は君南風らの勲功もあり敗北し、八重山は中山王府に支配されて行く。国家の先兵となった巫女たちは帰還した後、優遇され体制の宗教的守護者となった。
 八重山の場合彼女らの血筋のみが大切にされ、霊力は衰えた。体制化したからである。それに比べ、ユタ、あるいはムヌンシィ(物知り)と呼ばれる方は霊力がはるかに強かった。そのためもあろう、神司が誕生する際のシィジィ(血筋)ただしはユタによってなされる。
 ユタは政治体制に関係なく、カミガカリによって国家批判や口にだすことが憚られることを平然と述べた。そのため世を惑わす者として、蔡温は『御教条』のなかで厳しく批判し厳禁した。
 民衆にとって精神を病めば病むほど、政治に救いを求めるのではなく、ユタが精神的ケアの支柱となった。一六六七年の『羽地仕置』以来、明治~昭和とユタ征伐や弾圧は国家権力によって度々行われたが、精神をやむ者がいる限り、ユタは永遠に続くであろう。ユタが度重なる弾圧にもめげず生き延びているのにくらべ、国家体制の先兵となった神司たちの霊力は落ち衰退にある。
 島尻安伊子という沖縄選出の自民党参議院議員の参議院予算委員会での米軍普天間飛行場の名護への移設について、「名護市長が反対すれば混乱が続くだけ。埋め立て工事が妨害される前に警備等の対応を取るべきだ」(沖縄タイムス2月6日)発言を聞いて激しい怒りを覚えた。
 オヤケアカハチ征伐の先兵となった王府のノロにも見えた。民衆を救うどころか、国家の奴隷として従属させる役割しか果たさない者たちだ。
 島尻よ、これが沖縄選出の議員のいうことばだろうか。選挙公約を裏切り、国家の先兵となり下がった者はやがて、厳しい審判が下されるであろう。
 かつて自民党で、県議会議長を務めた仲里利信氏や西銘県政で副知事をつとめた座喜味彪好氏らが、保革を乗り越えて、名護市長選挙で稲嶺進氏を推したことは、沖縄の保守系政治家の良心に感動を覚えた。公明党もまたしかりである。金城勉公明党幹事長は沖縄選出の国会議員が辺野古移説を認めた記者会見をテレビで見て石破自民党幹事長が琉球処分官に見えたという。
「仲井真知事に県外移設を貫いて欲しい」という思いは見事に裏切られた。
 金城は「前原高校在学中に同じ高校の女生徒が通学路で米兵にサトウキビ畑に連れ込まれ乱暴された。校庭で全学集会に参加し、怒りに震えながらシュプレヒコールのこぶしをあげた」「県民は常に危険と隣り合わせだと、私は身に沁みて知っている。それは今の私のエネルギーでもある」(沖縄タイムス13年12月15日)
 金城勉は62歳というが、その全人生は米軍基地と向かい会う事であったに違いない。
 公明党は平和の党として初心に帰るべきである。くだらない自民党と連立与党など組んで歴史に名を汚してはならないはずだ。
 仲井真県知事の背信、県民を愚弄するにもほどがある。札束の前にひれ伏して沖縄県民を代表して感謝申し上げますという姿に怒りどころか、哀れみを感じた。沖縄の精神をカネで売った知事として沖縄の歴史に刻まれるであろう。いや刻まなければならない。
 そんな知事を、中山石垣市長は擁護しているのである。石原東京都知事の尖閣購入問題でも追従し、自衛隊、防衛協会との関係ばかり強化しているとしか思えない。施政方針演説の盗作問題から始まり、沖縄県立図書館八重山分館廃止推進、その他諸々。
 識名トンネル問題を抱える副市長や議会で不信任案が可決された教育長を続行させていることは市民を愚弄しているとしか思えない。
 四年に一度の市長選挙である。地縁血縁、部落対抗意識で一票を投じてはならない。
 政策を読み、自ら判断することである。それが出来なければ、投票する資格はない。

大田 静男

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