竜宮の黄金

 昔、とても正直で、心やさしい漁師がいました。
 この漁師は、その日に必要な分だけ漁をすると、他は、どんなにたくさん魚や貝がいても漁ろうとせず、朝晩決まって、海の神様にお祈りをすることを忘れませんでした。
 その漁師のところにひとりの娘がやって来て、自分を嫁さんにしてくれといいました。あまりに突然の事だし、自分は嫁さんをもらえるほどのお金もないので、その娘の申し出をきっぱりとことわりました。すると娘は、「そんなことでしたら、私は、ちゃんと知っています。そのうえで、あなたの嫁になりに来たのです」といって、もうその日から、漁師のところに住みついて、あれこれ仕事を始めてしまいました。
 そしてある日、黄金の小粒を出してくると「これで、お米や、着物やあれもこれも買って来てください」と漁師にいいました。
 漁師は、そんな黄金で、ものが買えるなんてことは、今まで知りませんでした。だから「こんなもので、そんなに色々なものが手に入るなんて、どうしても考えられない」といいました。
 そして、「そんなものだったら、海の神様が前の海の中に置いていってくれたものが、そのままにして置いてあるよ」といいました。
 娘は、びっくりして漁師にその場所につれていってもらいました。すると、どうでしょう、漁師の家の前の海の中に、黄金がうず高く積まれていて、龍がそれを守るようにして、その横にいるのでした。こうして、はじめて黄金の価値を知った漁師は、たちまち、大きな舟を持つ、国一番の漁師の親方になったということです。

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