島の冬食材

八重山の冬。自然に囲まれた島々では、さまざまな食材が旬の時期をむかえる。海や山の、冬の味覚をめしあがれ!

イノシシ -西表島-


 西表島と石垣島では、毎年11月15日から2月15日までの3ヶ月間、イノシシ猟が解禁になり、山へ入る人が多くいる。そして、時期には特に、島内の飲食店ではイノシシをつかったメニューを食べることができる。西表島浦内に三線工房を構える奥田武さんも、イノシシを狩るひとりだ。20年ほど前から毎年この時期になると猟に出かけているという。奥田さん曰く、今年のイノシシは小柄だが肉がついていて上等だそうだ。
 イノシシの肉はその日に食べる分以外は冷凍保存する人がほとんどだが、奥田さんは、ベーコンやハム、燻製にして保存する。ハムとベーコンは時間をかけて作ることで、旨みが増し、味わい深くなるという。また、中身は生姜やたまねぎを使って、好みの味付けで1時間ほど煮込み、水分を飛ばして乾燥させ、2時間ほど燻す。調理するのは、食事処の唐変木を営む奥さんの伶子さん。唐変木でもイノシシ汁やチャンプルーなど新鮮な肉をつかった料理を出している。

 少し変わった食べ方としては、店を手伝っているブラジル出身の牧野ソフィアさんが紹介してくれたフェージョアーダとよばれるブラジル料理がある。通常は豚の尻尾や鼻、足などを塩漬けにして保存し、黒い豆と一緒に煮込むが、奥田さんが獲ってきたイノシシで作ってみたところ、とてもおいしかったそうだ。
 島の人は、汁やチャンプルーだけでなく、イノシシを刺身で食べることも多い。奥田さんは「本当は、イノシシは獲れたその日のうちに刺身にして食べるのが一番おいしいのですが、新鮮でないとだめなので、お店などで扱うのは難しいです」と話す。西表島では、祝いの席や人が集まる場所には、大きな鍋で煮込んだイノシシ汁や新鮮な刺身などが並ぶ。

クシティ -与那国島-

 与那国島では12月~4月にかけてクシティが旬。クシティとは与那国の方言で、香草、パクチーのことだ。昔から台湾と交流があった与那国島では、古くから種が渡り栽培されているそうで、島の食卓には昔からクシティを使った料理が並ぶ。料理の味付けやトッピングとしてだけでなく、野菜としても食べる。寒くならないと芽がでてこないため、今年は気温が高いので少し遅めの収獲だという。この日、米浜玉江さんと堀之内咲枝さんは、与那国空港近くにある畑でクシティの収獲をした。

「雨に濡れると傷みが早いので、晴れているときに収獲するのが基本。クシティは成長が早いので、根と下の茎を残しておけば、1度の種まきで、2?3回収獲できますよ。那覇や県外にいる親戚や友人に送ると喜ばれます。子どもの頃から食べているので、与那国の人にとっては昔からの味です」と話す。米浜さんの畑でとれたクシティは与那国島内のスーパーでも売られている。また、自身が営む与那国空港内のレストラン旅果報では自分の畑で育った新鮮なクシティや旬の野菜をサラダや和え物、刺身のツマとして出している。

ムンチャン -小浜島-

 小浜島では9月頃から12月頃までムンチャン(島だこ)がたくさんとれる。八重山ではウムズナーと呼ばれることが多いが、小浜島ではムンチャンやムンツァンと呼ばれている。
 平田末子さんは、潮位表を確認し、干潮の時間に合わせ、やらますの浜にムンチャンのイザリ(夜の漁)に出かける。
  12月は潮が引くのが夜中の12時半頃~3時頃で、日によって異なるが、末子さんはヘッドライトを頭に、大きめのライトを腰に巻き付け、遠くを照らすための懐中電灯を片手に海に向かう。ムンチャンがたくさんとれるのは干潮1時間前の潮が引き始める頃だという。まだ巣穴に入っていないときに、軍手を着けて手で拾っていく。2日間で50匹あまりのムンチャンをとった。「今日は行かないと決めて、テレビを観ていても、外を覗くとムンチャンをとっている人のヘッドライトが見え、私も海に向かってしまう」と笑顔で話す。

 夜にムンチャンとりに出かける末子さんは、潮の満ち引きを考えながら歩く。知識がなければ深みにはまったり、潮が満ちて踏み場がなくなったりする危険もある。「イザリに出かけるには海を知らないと危ない。潮が満ちるときには泡を吹き、潮を招くようにクモヒトデが足を出す。風や雨も満潮のサイン」と海の知識を話してくれた。
 細崎方面の石長田海岸では昼の12時過ぎ頃から少しずつ潮が引き、ムンチャンとりをしている人が数名いた。
 この日、細崎集落に暮らす海人の玉城正徳さんは、風が強いため、午前中で漁を終え、ムンチャンとりに出かけた。まずは、餌となるカニをつかまえ、分解し、アダンの芯で編んだ手作りの罠にカニを巻き付ける。巣穴を探しながら遠浅の海を進んでいく。ムンチャンの巣穴の入り口には小石や砂利が盛られていて、岩場に多く見られるのが特徴だそうだ。

「罠にかかっても、目が合うと穴に潜ってしまうので、テクニックが必要です」と話しながら罠を仕掛けていく玉城さん。ムンチャンとの駆け引きは知恵比べをしているようだ。「今日は風が強いから、巣穴から出ているムンチャンも多いですよ」と話した瞬間に大きめのムンチャンを手でつかんだ。少しすると、ムンチャンとりの名人として知られている仲嶺みえ子さんが現れ、仲嶺さんもまた、巣穴を見つけては罠を仕掛けていった。
 皆、風が強く、潮が引ききっていないため不漁だといっていたが、時間が経つのも忘れて、罠を仕掛けてはたくさんのムンチャンをつかまえていった。

黒糖 -西表島-


 毎年冬、12月~4月くらいのキビ刈りの時期、そして製糖期間。八重山でサトウキビ畑があるのは、石垣島、西表島、小浜島、波照間島、与那国島。そして、各島とも製糖工場がある。刈られたサトウキビはその工場に運ばれていくものが大半だが、自ら、キビから黒糖を手作りしている人がいる。
 西表島古見に店舗と工場をかまえる高田見誠さんだ。高田さんは、小さい頃に食べたことのあった直火製造の香ばしい黒糖のおいしさが忘れられなかった。高田さんが生まれる以前、島に工場がなかった頃は、農家が何件か集まって、薪で直火炊きをし、黒糖を作っていたそうだ。懐かしい味を自分でつくってみようと、4年ほど前に黒糖作りに挑戦。それから試行錯誤をくり返し、自分でも満足のいくものがつくれるようになった。現在は窪一さんにすべてを伝授し、窪さんをリーダーに、西戸晃仁さんと、補佐的にはいる高田さんと3人で製造している。猪狩家という店の名前にもあるように、高田さんは冬の味覚であるイノシシの狩りもし、お店のメニューにも出している。

 キビは毎朝、その日の材料となる量を刈っている。刈ったキビは、まず圧搾機で絞ってキビ汁にし、不純物を濾す。それを釜で火にかける。pHを調整しながら2時間半ほど、強い火力で炊いていく。それを小分けにし、別の釜に移し、火にかけ、キビを1本つかい、休むことなくずっとかき混ぜる。だんだん手ごたえがでてきたら、容器にうつして、熱を冷まし完成させる。高田さんのところではキビは1回しか搾らない、一番搾りにこだわっている。水もなにも混ぜない、純黒糖だ。できあがった黒糖は、猪狩家で販売し、サトウキビジュースや黒糖をつかったプリン、アイスクリームをメニューで出している。
 キビの糖度ののり具合にもよるが、毎年だいたい11月半ばから6月くらいまで手作りしている。キビが一番甘くなる糖度のピークは3月だという。キビにも品種はたくさんあり、食べておいしいもの、飲んでおいしいもの、加工品にしておいしいものと、それぞれの特徴があるという。それをみて独自の割合でブレンドする。品種によって炊き上がりも沸騰の仕方も違うそうだ。
 お店では黒糖作りの体験をすることもできる。高田さんは「最近はおいしいと言ってくれる人が増えて、リピーターの人もいるから嬉しいです。大量生産ももちろん大事だけれども、手作りのおいしさにかなうものはないと思います。昔ながらのおいしさを守っていきたい」と日々手作りを続けている。

冬野菜 -波照間島-


 子ども頃から両親の手伝いで畑仕事をしていた後冨底フヂヱさん(80歳)。今日は冬の野菜の大根やカラシナを収穫。フヂヱさんの畑には、チンゲンサイ、ホウレンソウ、人参など実に15種類もの野菜が育てられていた。冬の野菜はだいたい、お正月や十六日祭にむけてつくっているので、収穫にはまだ少し早いものが多い。畑の肥やしはすべて、製糖期に出るキビの搾りカスのバガスだ。島ではこれをつかう人がほとんどで、工場から畑に1年分を運んでくれる。
 とれた大根は、煮付けやお汁、シリシリなどにして、一緒に暮らす息子さん夫婦や孫の夕奈ちゃんたちと食卓を囲む。「大根は風邪薬になるよ」と話す。お嫁さんの奈穂子さんがお家で、そばカフェあとふそこを営んでいて、お店でもフヂヱさんが育てた野菜もつかわれている。
 昨日は沖縄本島に住む、長女と孫に野菜を送ったよと嬉しそうに話すフヂヱさん。「自分でつくるからおいしいし、心配もないよ。野菜づくりがあるから元気でいられるよ」と笑顔だった。

 石野久子さん(72歳)がつくった野菜は、名石売店で買うことができる。その時期のものを出していて、ほぼ年中並んでいる。今畑で育っているのは、シカクマメ、島ネギ、人参など。今年は大きい台風があった影響で少し成長が遅いが、冬の野菜ができてきているという。その中に、珍しい、赤い葉をしたカラシナがあった。久子さんが小さい頃は島でもあったような気がすると話すこのこの野菜は、カラシナの変種で、種は石垣島の知り合いからもらい、今回初めて自分で育てたそうだ。畑でとって食べさせてもらうと、青い葉のカラシナよりもピリッっとした味だった。
 久子さんの畑には真ん中に井戸がある。この土地の下に水脈が通っていて、野菜には今もこの井戸水をあげている。「無農薬だから何でも生で食べられるよ」と話す。
「自分のできるだけをやっているよ。みんながおいしいって喜んでくれるのが嬉しい」ととっても元気に話す久子さん。昨日の晩ごはんには、自分の畑でとれたシカクマメと、自宅の石垣で育てているオオタニワタリのチャンプルーを作って食べたそうだ。

車えび -石垣島-

 12月から3月が旬の石垣島の車えび。本村浩司さんの営む、崎枝にある車えび養殖場でもこの時期たくさんの車えびが水揚げされていた。

 東京ドームの約3個分にもなる養殖場の中には、だいたい400万匹から500万匹の車えびが養殖されている。本土では夏に育てられる車えびだが、気温が15℃から20℃になる八重山の冬の気候は車えびを育てるのに適しているそうだ。養殖場に取り込んでいる崎枝の海水は冬場でも20℃前後に保たれ、車えびが活発に育つ。20℃を大きく下回ると車えびが活動しなくなってしまうそうだ。
 車えびは夜行性で、昼から夕方の間は砂の中で眠っていているので、夕方に捕獲のかごを水中に沈める。夜に砂から這い出て活動し、かごに入ったところを朝に引き上げる。
 水揚げだけでなく、車えびの様子を見るのも仕事のひとつ。餌をちゃんと食べているか、昼間寝ているかをダイビング機材を着け潜ってチェックする。暖かい八重山といっても、冬の海水は身に染みる。車えびの世話は、体力が必要だそうだ。

 手間がかかる分、自分たちが育てた初物を食べる時はとても嬉しいと話す。
「どの車えびもおいしいけど、自分が育てた物は格別。担当した区域のえびが一番おいしい、なんて話しながら従業員みんなで食べます」と事務所の奥で調理したメニューを紹介してくれた。水揚げしたその日に食べるなら、生きたまま頭をとって皮をむいてそのまま食べるのが一番。醤油をつけなくても甘みが口の中で広がるという。
 本村さんは「石垣島のきれいな海水で育てられるからこそ味わえる風味。食べるときに元気に動いていてくれることが嬉しいですね。生きたまま踊り食いをするのは日本ならではなので、命の大切さを感じながら食べて欲しい」と話した。

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